12月5日、ソーシャルゲーム製作企業である株式会社KLabはULTIMATE CLASSIC INVESTMENT LLC との資本業務提携契約の締結を発表した。併せて同日、ゲーム制作企業である株式会社Sun Asteriskとも提携を発表。今回の提携に際して、株式会社KLabは新規の資金調達を試みており、今回それが両者に向けて成功。51億円の資金調達を行う事が出来、同社の業績が大幅に改善する結果となった。今回はその資金調達の流れと背景事情を見ていく事にしよう。
新作を控えたKLabの青息吐息
同日にKLabが発表した「ファイナンス及び付帯する発表に関する補足説明資料」によると、2021年12月期に238億円あった売上高は2024年12月期には83億円まで縮小。その一方で営業利益は赤字を叩き出し続けており、黒字転換が果たせていない状態となっていた。同社がリリースしているタイトルは主にソーシャルゲームであり、『BLEACH Brave Souls』や『キャプテン翼 ~たたかえドリームチーム~』といったタイトルを現在リリースしている。ただしどちらも黒字転換に対して決定的な影響力を持つものではない状況だ。

そんな中で同社は新作のソーシャルゲームとして、ドラゴンクエストシリーズ新作となる「ドラゴンクエスト スマッシュグロウ」を開発中であった。ローグライクゲームとしてリリースされる同作は現在ベータテストを経て、2026年にリリースされる予定との事である。
だがしかし資金が続かなければゲーム製作を行う事は出来ない。同資料では現在「EA SPORTS FC™ TACTICAL 」が開発凍結中となっており、「僕のヒーローアカデミア (仮題) 」や新規IPコンテンツを2026年以降にリリースする予定で開発を続けてはいる状況であった。とはいえタイトルの開発凍結はゲーム製作企業にとっては厳しい重石となる。そこに今回救いの手を差し伸べたのは、今回の51億円調達のうち実に79%もの株式を新規取得し、株式保有率23.15%を占めて筆頭株主となったULTIMATE CLASSIC INVESTMENT LLCである。
ULTIMATE CLASSIC INVESTMENT LLCとオイルマネー
ULTIMATE CLASSIC INVESTMENT LLCはアラブ首長国連邦 ドバイ首長国に本社を置く企業である。同社の主な事業は投資であり、出資者の多くはアラブ首長国連邦の王族たちが名を連ねている。今回の出資において、UAEを構成するラス・アル・ハイマ首長国の王族であるシェイク・サレム・カリード・フマイド・モハメド・アル・カシミ殿下を顧問に受け入れる事をKLabは合意しているとの事だ。
また今回調達された資金のうち70%は、KLabが今後展開する「デュアル・ゴールド・トレジャリー」というビットコインと金を組み合わせた事業資金確保戦略に用いられる。ゲーム開発事業向けには、残りの30%(15億円前後)が充当される事になる。

ゲーム業界にオイルマネーが流れ込む動きはSNKが好調となっている背後で行われた、「ミスク財団」によりSNKが買収され企業として復調している事例が認められる。今回もその一例としてアラブ首長国連邦発の投資会社に国内の企業が助けられた形となった。
ただしこれを単なる救出劇として評価するのはやや早計に過ぎるかもしれない。SNKを買収したミスク財団のオーナーはムハンマド・ビン・サルマーン・アール=サウード氏であるが、同財団はアラブ首長国連邦のサッカーチームであるアル・ナスルFCのオーナーでもある。そこに所属しているのが有名プレイヤーであるクリスティアーノ・ロナウド選手であるが、なんと同選手は餓狼伝説City of the Wolvesにおいてプレイアブルキャラとして出演を果たす事になったのである。戦闘スタイルはサッカーとマーシャルアーツを組み合わせたもので、攻防ともに隙のない強力なキャラクターとして仕上がっている。
また同作には実在のDJであるサルバトーレ・ガナッチ氏もプレイアブルキャラとして出演をしており、これまでのシリーズに出演したキャラクターを差し置いての実装とも見えるこの調整に対して、既存の格闘ゲームプレイヤーからは賛否両論の声が上がっているのである。もちろん、格闘ゲームを知らずにロナウド選手やガナッチ氏を知る人物が同作に触れる機会を提供された事で、格闘ゲームファンとなったという声も見受けられる。とはいえ半ばスポンサーの意向に左右されるようなゲーム作りが進むのは、シリーズファン達からすると「昔馴染みの店が改装されてしまった」という様な寂寥感を覚えるのは分からなくもない。
今回の出資が果たして同社の経営や今後のゲーム制作に対してどういった影響を及ぼすのか、大きな注目が集まっている。
