ゲームアワード「The Game Awards 2025」開催 Clair Obscur: Expedition 33が驚異の9冠獲得へ

The Game Award キーアート

 コンピュータゲーム業界の功績を讃える年次表彰式典として、またゲームメディアやプレイヤー達が最も面白いと思うゲームを選ぶ場となるThe Game Awards。今年もThe Game Awards 2025が2025年12月12日(日本時間)に開催された。

 今回は多くのタイトルが目白押しとなる中、Clair Obscur: Expedition 33は新規IPでありながら、最高の栄誉である「Game Of The Year」を含めなんと9つものタイトルを総ナメする形となった。流石にこれには多くのメディアが驚きの声をあげるものであったが、日に日にコンテンツがリッチとなり開発費も高騰する中で同作が受賞を果たした影響は非常に大きい。本記事では同作も含め、複数の賞についてその受賞作を含め追いかけていこう。

ゴシックファンタジーかつ古き良きシステムのClair Obscur: Expedition 33

 Clair Obscur: Expedition 33はフランスを拠点とするスタジオ・Sandfall Interactiveが開発したRPGだ。ベル・エポックというフランス語で「美しい時代」を意味する絵画手法を参考に、ビジュアルと色彩にこだわり抜いた作風が見えるタイトルとなっている。同作のシステムは世間的には向かい風を受けつつあるタイプのターン制バトルであるが、敵の攻撃を特定のタイミングでコマンド入力を行う事で軽減出来る「パリィ」のシステムなど、アクション性のある要素も取り入れている事が特徴だ。同様のシステムはファイナルファンタジーⅧなどでも導入されているが、本作のように明確な要素として提示しているタイトルは非常に少なく、他にはMother3などが挙げられる程度だ。

 その名前が独特である事から、Clair Obscur: Expedition 33が「クレール・オブスキュール:エクスペディション33」と呼ばれる事は発売当初そこまで無く、長い名前から「なんとか33」などとも呼ばれた同作であるが、瞬く間にミリオンヒットを飛ばし、SteamDBのデータでは「Steamだけで」370万本以上の売上と推定されるなど非常に好評なタイトルとなっている。

 そしてこのゲーム、そこまで売れておきながらその制作費の低さも話題となっている。本作を手がけるSandfall InteractiveのCEO、Guillaume Broche氏がThe New York Times誌のインタビューで語った所によると、制作費が1000万ドル(約15億~16億円)未満で制作されたとの事である。今年リリースされた「キングダムカム・デリバランス2」はおおよそ60億円、「アサシンクリード・シャドウズ」は170億円程、「グランド・セフト・オートV」は当時のレートで264億円、「Destiny」が500億円程と、AAA級タイトルと比較すれば非常にローコストで制作されている事が分かる。SNSでは「16億円あったらアサシンクリード・シャドウズが何本製作出来るんだ」などといった皮肉すら飛んでくる程にはお安く仕上げてあるのは、取捨選択の妙と言える所だろう。

他のゲームの受賞も一部振り返り

 他のタイトルについても、全てではないが受賞作を逐次上げていく事にしよう。Best Ongoing Gameでは「No Man’s Sky」がタイトルを獲得。リリース当初こそ低い評価であった同作は、度重なる粘り強いアップデートでついに好評を勝ち取り、現在では非常にユーザーに評価されるタイトルとなっている。

 Best Mobile Gameでは「ウマ娘 プリティーダービー」が受賞。先日グローバル版のサービスが開始されると同時に海外でも爆発的な人気となり、特に海外の地元で行われている競馬や馬の育成などの業界に大きく目が向けられる事になったという話は、ウマ娘の与える影響が日本国内外問わず良い効果をもたらしている事の証明だろう。

 Best Multiplayerでは「ARC Raiders」が堂々の受賞。プレイヤー間におけるPvPに対Enemy要素も取り込んだ同作だが、その協力プレイを行わざるを得ないバランス調整はこの手のジャンルに一石を投じたといっても過言ではないものである。

 Best Action/Adventure Gameでは「ホロウナイト:シルクソング(Hollow Knight: Silksong)」が受賞。インディーゲームでありながらも同作はその作り込みから高い評価を得ているが、今回の受賞に至った事でインディーゲームに対する見方も大きく変わるものと期待出来る。

 Best Fighting Gameでは「餓狼伝説 City of the Wolves (Fatal Fury: City of the Wolves)」が受賞となった。今回ノミネートされたタイトルがストリートファイター6ではなく「カプコン ファイティング コレクション2 (Capcom Fighting Collection 2)」であった事も受賞の一因と呼べるだろうが、現在SNK発の同作は世界的に大規模な大会を次々と行っているタイトルでもある。そういったフットワークの軽さと大会の多さが評価された形だ。

 Player’s Voiceでは「鳴潮 (Wuthering Waves)」が受賞。コマーシャル戦略を行っているのではないかと批判される同作ではあるが、サービス開始当初のストーリーの難解さを抑えたり、ゲームバランスの調整をユーザー目線で行っているという点が今回の評価に繋がったのではとする声が散見される状況だ。

 ただし今回の選出結果に対して、当然ながら不満も出ている。「Ghost of Yōtei」や「DEATH STRANDING 2: ON THE BEACH」といったタイトルが受賞を逃している事や、「Megabonk」の開発者がノミネートを辞退するなど、円満な選考ではなかったとは幾らでも言えてしまうのである。

 今はただ、ゲーム業界に新たな星が輝いた事を祝い、そして次にまたどういった綺羅星が出てくるのかを期待するのが大人の楽しみ方と言えるのではないだろうか。

1995年神戸生まれ。ゲーム記事エディター。国内メディアのゲーム・エンタメ記事編集者として5年勤務後、フリーライターとして複数のメディアで活躍。ビデオゲームの専門レビューや特集を中心にお届け。