ゲーム発のキャラクターや名言などが、匿名掲示板や動画サイトなどで取り上げられ、ミーム化する事はよく見られる事象だ。MMORPGが流行していた2000年代前半の動画作成方法であるFlashと匿名掲示板「2ちゃんねる(現:5ちゃんねる)」の合わせ技は、ネット界隈に「ネタをネタとして消費する」流れを生み出したといっても過言ではない。しかしゲーム発のミームが、まさかサービス国と開発国を結びつけ、平和的なネタでネットを賑わせる事になるとは当時想像も出来なかっただろう。
現在bilibiliにて運営、EPIDGamesにより開発が行われている「トリッカル・もちもちほっペ大作戦」。3度目のサービスインとなった同作が快調にヒットを飛ばす中で、11月頃より奇妙な現象が発生している。同作に登場するキャラクター「スピッキー」のキャラクター画像と音声素材を利用した短いMAD動画が投稿された後、そのキャラクターに関連する動画が雨後の筍の様に広まっているのだ。公式サイトがそれを感知しミームを逆輸入したり、日本語版と韓国語版両声優がミームを認知し流行に乗っかったり、挙句の果てにはゲーム内のペットとして該当デフォルメキャラクター「スピキ」がゲーム内に実装されるというカオスぶりを見せている。今回はこの混迷極まりない事態について、その意外な波及効果もあわせて紹介しよう。
なお、事前に断っておくが本記事では動画リンクが大量に存在する。是非興味があれば全て見ていって頂きたい所である。
シンプルだからこそ流行る
全ての発端となったのは、トリッカル韓国版で実装されたイベント「カードの中で踊る運命」のワンシーンである。いたずら好きの幽霊たちが、主人公たちの所属する組織「世界樹教団」に潜入した際、幽霊であるスピッキーが司祭長に扮し手引きを行った。その後本物の司祭長である「ネル」に捕まってしまい、頭を掴まれて引っ張られ、ボッコボコにされてしまう一幕だ。このシーンを取り上げた動画の前半が韓国語版、後半が日本語版の音声となっている。
この前半部分で甲高く泣くセリフがスピッキーのものだが、日本語版のやや落ち着いている様な少女然とした声とは違い、韓国語版ではまるで子供が泣きじゃくる様な声となっている。この声を元に作られたのが以下の動画だ。この音声を元に、お正月には必ず流れる雅楽「越天楽」の音楽を合わせたMAD「ウアア! スピキオショガツバゼヨ!」が作られる事になる。
この独特な声質や、他のセリフも合わせたMAD動画が次第に作られる様になり、それがYoutubeやニコニコ動画へと多量に投稿されるというブームが巻き起こったのである。12月からはそのブームが大きく広がりはじめる事になる。不正アクセス事件後に再生数が落ち込んでいたニコニコ動画の再点火役とでも言うべき30万再生を達成する動画が現れるなど、単なるミームに留まらないムーブメントとしてうねりが形成されていったのだ。
なお公式サイドも黙ってはいなかった。11月中の広がりを見て、わざわざ音声を新録したMAD動画をなんと公式側で作ってしまったのである。それだけではなく、韓国語版声優のパク・シユン氏がこの手のMADを全部チェックする企画が立ち上がり、その後別の放送内で日本語で感謝の声を披露。かたや日本語版スピッキーの声優である小坂井祐莉絵氏が韓国語のスピッキーの音声を模倣する動画を上げるなど、最早収集がつかないレベルでこの流れは広まっていった。
そして運営チームより、このミームの火付け役となった「スピキ」がゲーム内のペットとして実装される事となったのである。現在8日間トリッカルへログインすれば受け取れるため、遅くとも1月21日頃までにスタートすれば入手可能となっている。
📢伝説ペット「スピキ」がまもなく登場❣️
— トリッカル・もちもちほっペ大作戦 (@trickcal_jp) December 28, 2025
目に涙を浮かべたスピッキーを模して作ったぬいぐるみ。なでると、おもちゃの笛みたいな音が鳴る。その音色は、スピッキーの泣き声にそっくりだという。
💝開催予定のイベントに参加すると、無料でゲットできるチャンスが🆓‼️
教主様、どうぞお楽しみに!… pic.twitter.com/v1zSLE3OED
可愛い友好の架け橋
この流行にはいくつかの潜在的な理由が存在する。まず可愛らしいキャラクターデザインと愛嬌ある声というのは、得てしてマスコット化されやすい傾向にある。パク・シユン氏は当作ではスピッキーなどを担当しているが、他には韓国語版での「SPY×FAMILY」のアーニャ・フォージャー役、「原神」のナヒーダ役、「機動戦士ガンダム水星の魔女」のチュアチュリー・パンランチ役など、闊達さであったり少女性を求められる様な役どころを中心にこなしている実力派の声優だ。日本語の声優として金田朋子氏や釘宮理恵氏といった可愛らしい系統の声と近しいテイストと、キュートなキャラクターという組み合わせは流行るべくして流行ったと言っても過言ではない。
次に動画などに使われている素材が、キャラクターも音声も公式のものであった事が大きい。ソーシャルゲーム発のネットミームキャラクターとして、「勝利の女神:NIKKE」のユーザー間から生まれた「DORO」も挙げられる。ただしこちらはファンアート由来であり、加えてDOROの顔と身体の作成権利者がそれぞれ別人であるという事で、公式がキャラクター化するには長い時間をかけなければならなかった。現在では晴れて版権を公式が所持しており、色々なイベントに顔を出したりPVが作られたりしている。
そしてこのスピッキーの、若干たどたどしさすら感じる韓国語の可愛さに魅せられたのか、日本ユーザーの間から「韓国語を勉強してみよう」というムーブメントがあわせて広がっているのだ。文の構成で発音が変わりやすい言語ではあるものの、文型自体は日本語とそう変わるものではないため、ある意味では英語より馴染みやすい言語ではある。加えて一部言語に日本語の漢字の発音と似た発音が存在しているため、場合によっては漢字を読んで意味が分かるケースも出てくる。
取り上げられている単語「좋아요(チョワヨー)」は、日本語に直すと「良いよ(肯定、評価、好み)」という意味合いである事も拍車をかけている。いわゆるネットスラングや否定の発言ではなく、喋れれば良い印象で場を繋げられる事が大いにある前向きなワードである。なおトリッカル内の別キャラ「ウイ」の韓国語版担当声優であるキム・カリョン氏のカバーソング「幸福の注文」も人気を博している。こちらで頻出する「행복해져라(ヒムケジャラ)」という言葉は、日本語で「幸せになって」という意味だ。こちらについても覚えておけば、韓国語話者と良いコミュニケーションを取りやすくなるだろう。
思わぬ所で日本と韓国の交流のきっかけを作ったトリッカル。偶然にせよ必然にせよ、ゲームを通して広がる交流の輪がどこまで続いていくのか。両ユーザーはのんびりとした気持ちでこの動きを見守っている。
