ホロアース内で「不適切な表現が見られるNPC」を削除 偶然の一致か品質管理の失敗か

ホロアースのイメージ画像

 ゲーム内のコンテンツは日々増えているが、そういったコンテンツの中にはブラックユーモアの様な「分かる人には分かる」タイプのものや、あからさまな比喩表現として実在の出来事に即した様なものが見られる事もある。そして時にそういった要素が大きな火種となる事もまた往々にして出てくるのである。

 カバー株式会社が運営するオンラインコミュニケーションサービス「ホロアース」はバーチャルYouTuberグループ「ホロライブ」が手掛けるメタバースプロジェクトである。多くのプレイヤーが「ホロライブ」の推しの映像を観たり、あるいはライブコンテンツが実施されたり、自分のアバターを好きにカスタマイズしたりすることが出来る要素を特徴としている。

 そのホロアース内で先日実装されたNPCが、その名前や造形、セリフを問題視され削除されるという事件が起きた。実装された「コウゾーさん」というNPCが、元受刑者である飯塚幸三氏を想起させるという内容の投稿がSNSで拡散し、批判の声が上がったのである。この出来事について本記事では追いかけて行くことにする。

カバー株式会社の声明とキャラクターの設定

 12月5日、ホロアースを運営するカバー株式会社は「ホロアースにおける不適切なNPCの実装を受けた今後の対応について」という声明を発表。当該キャラクター「コウゾーさん」については、アバター表現の多様性を目的として、既存のファッションアイテムを用いて制作したものであり、制作過程において特定の人物を意図した事実は無いと説明した。

 そのうえで「本件について、偶然の一致と言うには難しいとも言える状況であることは認識しており、実際にそのような声も多くいただいている」としながら、「キャラクター設定とアバター設定のチームが異なっており、それぞれが制作に当たっていたため、意図して制作されたという事実はございません。」とも説明。制作体制の中でキャラクターに対応する開発チームが複数存在するが故に起きた事案との事であった。本来企画時点においては「農場経営者」という原案であった当該NPCは「作業着」等の専用アセットが無かった為、実装済みのアセットでキャラクターを設定した結果、デザインが酷似してしまったということであった。

 有志のツイートでは削除前の当該NPCの姿が確認されている。

 なお、削除前にはインタラクト可能なNPCとして設定されており、話しかけると「機械の変なところをいじって 気づけばこんなところに……」「孫にまかせればよかったよ 困ったなぁ……」とメッセージも表示される仕様であったとの事だ。

 確かに姿形はメガネをかけたやや初老の男性NPCであり、実際の飯塚幸三氏とは似ていなくもないという程度のキャラクターだ。しかしここで「機械音痴」かつ「本人の意図しない様な動作によるトラブル」という説明と、キャラクターの名前が合わさった事でかの飯塚幸三氏を想起させてしまうようなキャラクターが成立してしまったと言えるだろう。

 これについてカバー株式会社は「チェック機能の強化とともに、制作・監修フローを見直し、人の目によるチェックとツールによる情報精査の両面での対策を実施することを決定」しているとの事であり、品質管理体制の強化を見込んでいるとの事だ。

 今回問題とされたホロアースについては、11月19日にアップデートが行われ、その際に当該NPCが実装されている。その後11月26日のアップデートにて案内役以外のNPCが削除され、現在該当エリア「フォーカル・スクエア」については案内役の「アンナ・ロッカ」のみが立っている状況である。

何故発覚が遅れたのか?

 このNPCが問題の槍玉に上げられ、かつ話題になるのに時間が掛かった理由は3つ考えられる。まず1つ目は、削除前の当該NPCの位置だ。立っていたのは人の集まるフォーカル・スクエア内では目に触れる事が余りない2階の後方部という、元々人通りの少ない場所であった。フォーカル・スクエア自体が11月19日に新規実装されたエリアである事も相まって、ユーザーによる探索が行われていなかった事も考えられる。

 加えてホロアースの利用者数も控えめであったと考えられる事が大きく影響している。ホロアースは現在パソコンでのみ接続可能な状態となっており、iOS/Android向けアプリとしてはリリースがされていない。Youtubeへアクセスする機会の多いスマートフォンやタブレット向けに同コンテンツを展開出来ておらず、また動作させるにはそこそこのパソコンが必要である点は、ユーザー数を増やすには結構な足かせだ。参考までに動作に必要なスペックとしてはCPUはIntel® Core™ i5 8400(6コア5スレッド、ベースは2.80GHz)、メモリは8GB、GPUはNVIDIA GeForce GT 1030(2GB))以上とオンボード環境で動かすには少々ヘビーなタイトルだ。

 そして3つ目がSNSにおける拡散力の強弱も大きく影響している。ホロアースの人口が控えめであった事からSNSにおける話題にはなりにくく、かつ11月22日前後のホロアースタグの投稿についてはX上でもアバターによるスクリーンショットがメインであり、本件に触れる投稿は見られなかった。投稿自体もいわゆるバズる様な勢いのものはなく、あくまで内々で楽しんでいる程度の注目度であったのだ。

 SNSでは一概に問題のある要素に対して話題が集中しやすい傾向にあるのは言わずもがなである。23日に投稿された本件の話題についての注目度は、それまでのホロアースタグの投稿と比べて格段に上であったのだ。結果として本件がクローズアップされる事になったのである。これがメーカー側の意図したものではないとしても、そういった火種は事前にチェックしておくべきであっただろう。

品質管理とユーモアの活かし方

 今回のNPCの様な「事件を思わせるユーモア」が悪い方向に働いたケースとは逆の、いい方向に働いたケースについても取り上げておこう。Game Developer Xより2016年に発売された「Mr.President!」である。これは架空の合衆国の架空の大統領である金髪でやや太め体格のRonald Rump氏が演説している所を、プレイヤーはボディーガードであるDick “Rock-Hard” Johnsonとなり、物凄く悪い操作性と荒ぶる物理演算をお供に身体を張って狙撃手の手からRump氏を守る事になる。発売当初こそ1期目のトランプ大統領を題材とした、知る人ぞ知るバカゲーとして見られていた本作。だが、2024年7月のトランプ大統領銃撃事件以降に高評価が殺到。Gamalyticの集計ではあるが現在30万本以上はダウンロードされているようである。繰り返しになるが、本ゲームで護衛する人物はRump氏でありかの合衆国大統領とは別人である。

 とはいえ明らかに狙っているであろう本作の評価は「非常に好評」。シンプルなゲーム性ながらも多くのユーザーがそのユーモラスな出来に高い評価を付けているのである。今一度、実在の人物に近しい物を出そうとするユーモアを求めるならば、1ドル前後で買えてしまう同作の門を叩いてみるのも良い選択肢ではないだろうか。

1987年東京生まれ。ゲームニュース編集者。10年以上の国内ニュース記者および編集職を経て、現在フリーエディターとして活動中。国内・海外の業界ニュースやトレンドを中心に日本の読者にいち早く情報をお届け。