現在雨後の筍の様に話題が湧き出ているカテゴリーとして生成AIが挙げられる。GeminiやGrokの様な対話型AIやDALL eの様な画像生成AIなど直接的に情報を打ち込むものから、プログラミングやページ作成の支援などクリエイティブな分野に用いられるなど、その利用の幅は日に日に広まっている。そんな中でゲーム業界は、生成AIのもたらすコンテンツやリソースの取り扱いについて明確な線引をし、ユーザーと折衷案を探してきていた。
そんな中でゲーム配信プラットフォームのSteamは1月10日に「Steam上のAIコンテンツについて」というページを掲載。生成AIを用いたコンテンツに対しての取り扱いを含めた方針を本格的に策定している。これについて掘り下げて見ていくことにしよう。
生成AIコンテンツの増加とValve側の対応
今回話題となったのは、「ゲーム内において生成AIコンテンツを利用した作品」についてである。WebメディアであるTotally Human Mediaが昨年11月に掲載した記事によれば、Steamにおける生成AIを利用した事のあるタイトルの数はなんと10,258 タイトル。これは記事公開当時のSteamにおけるゲーム全体の8%を占めている事になる。もちろんこの調査から今までは時期が空いているため、その数は増えている可能性は高い。
調査結果では「12のゲームが8桁の収益を上げ、33のゲームが7桁の収益を達成。170件のゲームは6桁、487件は5桁の収益を得ている。残り(9,556件)はそれを下回った。」とある。恐らくドル建てでの計算であろうが、8桁収益の中にはX4:FoundationsやStellaris、Call of Duty:Black ops 7といったメガヒットタイトルが目白押しであるため、どちらかといえば「出来て当然」というラインナップではある。ただし大多数の生成AI使用作品は4桁ドルの収益を上げられていない事は、留意するべきだろう。
さてここまでゲームが増えてきてしまえば、Valve側も見てみぬふりをすることは出来ない。今回の声明についてValve側は以下の様に述べている。
「私たちは、今後も可能な限り多くのゲームを配信するというSteamの目標を掲げる一方で、急速に変化し、法的に不透明な領域を持つAI技術については、Steamの世界的な市場を考慮した上で、今後さらなる検討が必要であるという認識を共有しました。その後、数か月にわたり、この分野に関するリサーチや、複数のゲーム開発者との対話を続けてきた結果、本日よりAI技術を使用するゲームの取り扱い方法を変更することになりました。 この変更により、AI技術を使用するゲームの大半がリリース可能になります。」
これまで生成AIを使用するにあたって、生成されるコンテンツのデータについての出所が問題とされる事は多い。AIがネット上に展開されているイラストや動画データをスクレイピングし、それを学習し成果物に出力しているという挙動が多くのクリエイターの反発を招いたからだ。そして今回利用可能とされている内容について、以下の2つの要素を挙げている。
「事前生成:開発中にAIツールを使用して作成されたあらゆる種類のコンテンツ(アート/コード/サウンドなど)。 Steam配信契約に基づき、開発者はValveに対し、ゲームに違法なコンテンツや権利を侵害するコンテンツが含まれないこと、およびゲームが当該マーケティング素材と一致していることを約束します。 リリース前のレビューでは、ゲーム内にあるAI生成コンテンツを、AI生成ではないすべてのコンテンツの審査と同じ方法で審査します。この際、ゲームがこれらの約束を順守しているかどうかも確認します。」
「ライブ生成:ゲームの実行中にAIツールを使用して作成されるあらゆる種類のコンテンツ。 これには、事前生成AIコンテンツと同じルールに従うこと以外に、追加の要件があります。コンテンツアンケートで回答する際、AIが違法なコンテンツを生成しないためにどのような対策を講じているかを記入してください。」
それぞれ紐解いてみよう。事前生成コンテンツについては、ゲーム内に使用されるデータとして生成AIを利用した場合、そのコンテンツが著作権に違反しない事を約束する事が求められる。当然と言えば当然ではあるが、生成AIによる著作権侵害コンテンツを積極的に抑止する姿勢を見せているのは好感触だ。なお著作権や意匠権の侵害を行わない場合は問題ないと見なされているため、ゲーム制作側が全ての権利を保有し、かつ法的に問題のない素材を生成AIを利用して再構築した場合、これは問題ある行為とは見なされない。
またライブ生成コンテンツという、ゲーム内でのランダム性をもたせる要素についても言及されている。これはリアルタイムで応答・反応するタイプのゲームに見られるコンテンツを対象としており、こちらはゲーム内でどの様にAIが振る舞い、法的な違反行為を起こさない様にしているのかという対策についてValve側に提示するというものだ。いわゆる舞台裏をきっちり開示した上で、コンテンツをリリースする事が可能になるのである。なおライブ生成コンテンツについては、ユーザー側でオーバーレイを表示させ、即座に通報できるシステムも開発中との事である。
ここで重要なのは、アートやサウンド、コードといったゲームの根幹に関わるクリエイティブな領域にのみ制限が敷かれるという事である。作業補助ツールとしてのAIの利用などは、そもそもこの中には入っていない。昨今のクリエイティブツールではAIによる支援がソフトウェア内に組み込まれている事は多く、クリエイター側で意図的にそれを取り除く事が出来ない上に、それは作業の大幅な遅延を招きかねないというデメリットも抱えている。
ただしこれは生成AIコンテンツが「許可された」のであって、それを実際にどう判断するかはユーザー側が決めるものである。例えば東方Project新作の「東方錦上京 〜 Fossilized Wonders.」では生成AIコンテンツとして背景アートの一部にそれが使用されているとの明記が行われ、ユーザー達の間でちょっとした議論が起きたが、現在では肯定的に受け取られている。「マグナカルタ」「勝利の女神:NIKKE」「デスティニーチャイルド」「Stellar Blade」などで知られるキム・ヒョンテ氏は、IGN Japanのインタビューに対し「小規模スタジオが仕事の効率を上げ、大規模スタジオに対抗出来る切り札」という立ち位置で生成AIを評価している。いずれのタイトルもユーザーから好意的に受け取られている以上、この問題の骨子は生成AIそのものよりも「いかにクリーンでクリエイティブな物を、少数のクリエイターで効率よく作り上げられるか」という、清廉さと作業量を両天秤にかけて両方下から押し上げてくれる様な使い方が出来るのかという所にあると見て良いだろう。
まだまだ賛否の分かれる生成AIを巡るゲーム事情。「クリエイティブさ」を武器にジャイアントキリングを成し遂げるスリンガーとなるのか、それとも業界全てを四散させかねないバベルの塔となるのか。クリエイターの今後の使い方に注目が集まっている。
