Fate/Grand Orderの2部ストーリー終章が公開 ネタバレ防止のガイドライン施行と物語性のあるゲームのあり方

Fate/Grand Orderの改定ガイドラインの画像

 様々な媒体においていわゆる「ネタバレ」を禁止する行為は、ユーザーの間で古くから行われていた。例えば本でも映画でも、流行りのドラマであってもネタバレを回避するように配慮するように求める声は一定数存在した。そしてそれはゲーム作品においても同じ事である。特に昨今、SNSを通じてゲームの内容が広まりやすく、また企業による攻略Wikiの存在やゲームの実況プレイ動画などはゲームの内容を事前に知る事が出来る手段として機能している。

 そんな中でアニプレックスが運営するスマートフォン向けRPGの「Fate/Grand Order」は、「ゲームプレイ動画・静止画の配信・投稿に関するガイドラインの更新について」というページを公開。これは2025年12月よりスタートした「終章」という物語の最後半部分に対する画像・実況配信といった公開要素を規制する事を要請するものであった。今回一つの決着を見たFate/Grand Orderとはどういったゲームであり、そしてサービス開始より10年の歳月を経てエンディングを迎えた魅力とはどういったものなのかを紐解いていこう。

ソーシャルゲーム黎明期に生まれた針の山

 Fate/Grand OrderはAndroid版が2015年7月30日に、iOS版が2015年8月12日に配信開始となったスマートフォン向けRPGタイトルである。2015年はまだまだソーシャルゲームの土壌はそこまで広くなく、「ドラゴンボールZ ドッカンバトル!」や「崩壊学園」に「プロ野球スピリッツ」や「ガールズ&パンツァー 戦車道大作戦!」など今現在のタイトルに繋がる、あるいはサービスが続けられているゲームがこの年リリースされている。そんな中でローンチしたのがFate/Grand Orderだ。

 同作はTYPE-MOON原作のPCノベルゲーム作品「Fate/Stay Night」に端を発する作品となっており、それ以降のコンシューマ向けFateシリーズ作品としてはPS2の「Fate/stay night [Realta Nua]」やPSP対応の「とびだせ!トラぶる花札道中記」シリーズ、「フェイト/タイガーころしあむ」シリーズ、「Fate/Extra」シリーズなどがリリースされている。そんな中で当時ソーシャルゲームへと殴り込みを掛ける事になったその姿勢は、期待半分と不安半分というユーザーの声が上がっていた。

 事実、開始当初は育成要素が現在の比ではない程に厳しい調整となっており、プレイヤーが指揮する歴史上の偉人「サーヴァント(キャラクター)」も現在の様な利便性の高いキャラクターの数は少ないものであった。ストーリーの合間に無用な戦闘や描写が挟まれる事も多くあり、代表的な例として挙げられるストーリー進行中に「話の途中だがワイバーンだ!」というぶつ切りとなる構図は公式が後々自虐ネタにするレベルとなったのは語り草である。シナリオライターである奈須きのこ氏は、自身のブログである「竹箒日記。」にて以下のように語っている。

 『喩えるなら、「もとにあるシナリオ」を「もと(戦闘)に(戦闘)あるシ(戦闘)ナリ(戦闘)オ(戦闘)」と、物語の流れをぶった切って戦闘を挿入していました。そうしないとソシャゲーとしてプレイしてもらえないと判断されたからです。ですが結果は『物語重視でもよい』という事になりました。(1~4章までのワイバーン地獄はそういう事ですよ)』

 なお、イベント期間に実装された「ボックスガチャ」という、様々な素材を抽選式で引かせるタイプのゲーム内アイテムを使用したガチャシステムも、ユーザーのプレイ時間を多く取る事からこちらも毎回何かしらのネタにされる程、良くも悪くもソーシャルゲーム界のシステムとして定着を果たした。

 では何が良作として10年愛される結果となったのか?というのは当然の疑問だろう。序盤のストーリー展開は茶々が入る事も多く、それでいてやや冗長な面も見られていた。しかしストーリー展開は1部第6章から急展開を見せ始める。戦闘の高難易度化と、それを裏打ちする様なストーリー重視のシナリオ体制となったのである。ここに来てシナリオ戦闘は「ただ惰性に任せて攻略する」ものから、「腰を据えて次のストーリーへと挑む壁」へと変貌したのだ。

 その後2016年12月に第1部ストーリーは完結。これにてある程度の区切りはついたが、そこから第1.5部「Epic of Remnant」が合計4編配信。そして2017年年末に、第2部プロローグ「序/2017年12月31日」が配信されたタイミングで「査問期間中のアクセスは禁じられております。」という旨の文章が添えられた画像が公式ページに登場。ここから2025年の12月27日の終章後半部分実装までの、およそ8年近くに渡りより激しく厳しい戦いとなる第2部「Cosmos in the Lostbelt」のストーリーがスタートする事になる。

 第2部を彩る主題歌「逆行」は大きな注目を集め、ストーリーは更新テンポこそゆるやかになっていくが、濃密に描かれる内容はユーザーを惹きつけ続けた。2025年後半には終章開始条件に到達しているユーザーに、召喚用の通貨となる「聖晶石」を1000個配布するキャンペーンを実施するなど、是が非でもユーザーの足並みを揃えさせるよう苦心したのであった。なおこの1000個という数は、有償・無償を問わないならば168個を手に入れられる9500円の課金プランを基準とした場合、おおよそ56,000円程となる。太っ腹にも程があるというものだ。

 こうして一応のエンディングを迎えた同作であるが、その題材故に思わぬ所に影響を与えている。それが神話や偉人に対する再評価・注目というものである。

紡がれる偉人の足跡

 同作は歴史上の人物や神をモチーフとした「サーヴァント(以下、英霊と呼称)」というキャラクターが多数登場する。これは我々の知る現代に繋がる人物の足跡を辿る様なキャラクター造形がされており、また同一人物でも別の時代・別の側面を強調して描かれる事があるため、一つの人物に対する複数面からの掘り下げといった事も行われている。

 元々Fateシリーズが英霊一人ひとりに着目して、その生涯に即したあり方をキャラクターとして設定しているのは先述のとおりだが、このFate/Grand Orderは兎も角英霊の数がとんでもなく多い。ボス格の敵も一部含むが、その数なんと461。そしてその中には、これまであまり注目されてこなかった地域の人物や神話が含まれているのである。

 例えば作中誰もが目にするであろう英霊の「アーラシュ」は、イラン神話における射手として称えられる「アーラシュ・カマンガー」もしくは「アーラシェ・カマーンギール」と称されるモチーフが存在する。イラン人とその他の民族とを隔てるべき境界の印となる強烈な矢を文字通り「全身が消し飛ぶ程に」放った彼は、Fate/Grand Orderにおいては主人公に優しく接する良き兄貴分として登場。元々「Fate/Prototype 蒼銀のフラグメンツ」でキャラクターとして出演していた彼だが、Fate/Grand Order第1部6章で見せた活躍により、元々有効打を与えやすい彼の評価は非常に高まった。そしてここからが重要な所として、このアーラシュについての話はゾロアスター教の「アヴェスタ」以外は余り翻訳もされていない。つまり、イスラム(ペルシャ)圏の大英雄である人物の逸話が日本に伝わっていないのである。だがこの人気の高まりに、なんと日本において同人作品ではあるがアーラシュに関する逸話をまとめた「アーラシュ原典集成」というものが出る程になったのだ。

 また本作は日本では割と知名度の高いギリシア神話やローマ神話といったモチーフの他に、南米の神話体系や北欧におけるフィンランド神話「カレワラ」、英国における妖精の伝承といった知る人ぞ知るモチーフをベースとした英霊も存在している。こういった日本では比較的見られなかった文化圏の英雄譚や神話が提供される事で、現地の文化に対する好印象が強まるとともに、文化的な掘り下げに成功しているという唯一無二の特徴を持っているのだ。各英霊が辿る悲喜こもごものストーリーは、それだけ異文化に対する理解の助けともなっているのである。

 こうして紡がれた同作のストーリーを終章配信後に感想だけは述べる事が出来る状態のプレイヤー達がSNSで話題とした所、なんと新規プレイヤーの流入に繋がったのである。今から膨大なストーリーと向き合うべく走り出した新米マスター(プレイヤーの呼称)に対して、第2部終了勢から「行ってらっしゃい、良い旅を」と声が掛かるゲームは早々ないだろう。

 そして現在公式アカウントや公式サイトは、沈黙を保ち続けている。今後どういった展開が同作に訪れるのか、多くのマスター達が固唾をのんで見守っている。

1995年神戸生まれ。ゲーム記事エディター。国内メディアのゲーム・エンタメ記事編集者として5年勤務後、フリーライターとして複数のメディアで活躍。ビデオゲームの専門レビューや特集を中心にお届け。