ソーシャルゲーム「新月同行」 中国版が12月15日で更新停止。日本版は2026年6月後半まで更新維持

新月同行のイメージイラスト

 Garenaは2025年12月15日、スマートフォン向けRPG「新月同行」の中国版において更新を停止した事を公式ページとXにて発表。併せて現在実装されている更新イベントを一通り日本版にも適用させるというロードマップを発表した。

 現在中国版で実装されているイベントの、日本版における実装期間は以下の通り。

・血繭時轍:2025/12/30 ~ 2026/01/21

・往像螺旋:2026/01/22 ~ 2026/02/04

・楽園ヤバクナイト:2026/02/05 ~ 2026/03/04

・難破船旅:2026/03/05 ~ 2026/03/25

・雨中徐行:2026/03/26 ~ 2026/04/15

・曙光の帰還:2026/04/16 ~ 2026/05/06

・シン・ユートピア:2026/05/07 ~ 2026/05/27

・鍍金贋造:2026/05/28 ~ 2026/06/24

 日本におけるサービスインから4ヶ月程しか経っていない段階での更新停止の発表に日本のユーザーからは驚きの声が出ていると同時に、中国においても急に同作のサーバーに接続出来なくなったという報告がなされている。

原因は売上不振か

 本作品の開発企業である「烛薪网络科技(Firewick Game)」の発表では、開発中止の理由として「市場の急激な変化」と「運営コストの高騰」を挙げている。同作は確かにセールスランキングではそこまで上位に食い込めるタイトルではなかったものの、登場キャラクター達の魅力は悪くないタイトルであり、売上は少なくともファンをしっかりと持っていた作品であった。そのため、急激な売上減少といった話ではおおよそ無い。

 とはいえ本作はSteamやDMMといった他媒体においてサービスを提供しているタイトルではなく、あくまでスマートフォン向けソーシャルゲームとして各国のスマートフォン向けアプリ市場でのみタイトルを出している作品である。また昨今のソーシャルゲームで良く見られるような「サイト内購入」の様な形で手数料を削減するタイプの施策も取っていない。現状そこまでサービスを行う体力が企業側に無いものと推察されるが、そういった市場の潮流に合わせた展開が出来なかった事も売上が上がらない可能性の一因と見られるだろう。

 現に同作の戦闘システムはビジュアルとしては後発作品である「カオスゼロナイトメア」の様な、キャラクターを後ろから見るタイプの画面構成となっている。ビジュアルとして見応えがあるならば評価もされるのだろうが、そこから推移する画面は2Dのキャラクターが繰り出す戦闘アニメーションだ。単純なアニメーション描写だけを見れば、先発作品であるFate/Grand Orderが着実な改善とリッチ化を重ねているという点を比較にあげるまでもなく、ユーザーからも「退屈さを覚える」という様なコメントが上がっている。

 システムとしてもやや難解な説明が多く、理解すればある程度とっつきやすいが用語の設定がユーザーに対してフレンドリーでは無いと取られてしまうところも苦戦要因の一つだろう。中華ソーシャルゲーム独特の「雰囲気」としては良いが、そこに浸れるまでの導線がユーザー側に優しくなさそうなテイストであるのは否定できない。

 最も、同作に限らずインターフェイスが難解な作品というのは海外のソーシャルゲームでは総じて多く、大手タイトルである原神や崩壊:スターレイル、ゼンレスゾーンゼロといったタイトルでも漢字で表される派生技や特殊な状態付与といった説明が相次ぐため、結局の所使用感を確かめるしかないというある種の「お約束」は、中国産のソーシャルゲームにまま見られるものである事は確かだ。

 いずれにせよ、市場で生き残るには力不足と判断されてしまったのは惜しいところである。

仮説:かつての出資元の株式凍結の影響

 ここからはあくまで推測であり、確たる報道がなされているものではない前提で一つ話を進めていく。Firewick networkは独立系開発スタジオという体ながら、尚遊遊戯(公式サイトの記述では『深セン尚遊ネットワークテクノロジー』)という企業が母体として存在する。この企業についてはスマートフォンブランド「OPPO」とパートナーシップ協定を締結している他、中国大手の商業チェーン「歩歩高(BBK)」のグループ会社であるBBKエレクトロニクスという所から2007年に融資を受けている。そのうちのBBKエレクトロニクスについて、興味深いニュースに突き当たった。

 中国の経済メディアである新浪財経の報道によれば、このBBKエレクトロニクスの株式を持っている步步高集团(BBKグループ)の株式1億9300万株が湖南省湘潭市中級人民法院(以下、「湘潭裁判所」)によって司法凍結されたとの事である。これらの株式はBBKの総株式資本の7.19%に相当し、凍結期間は2028年11月19日までとなっている。今回の株式凍結はリスクのエスカレーションではなく、步步高集团の再建プロセスを円滑に進め、資産の損失を防ぐための保護措置であると説明がなされている。仮にこの両者の報道に関連性があるとすれば、かつての出資元の株式が凍結され、経営状態を再建に導く中で、収益性の低いプラットフォームであるとして投資先の尚遊遊戯やそこに属する開発スタジオのFirewick networkが煽りを食った形と見るべきであろう。

 ただしこの関連性については否定的な見解も存在している。中国における動画サイトbilibiliでは今回の新月同行のアップデートについて振り返り、関係者に事情を聞いたという内容の動画が掲載されている。そこのコメント欄を参照する限りでは、関係者の話として「経営実績が上げられないが故のサービス終了であり、企業の業績に問題があった訳ではない」と語られている。Google Playにおけるセールスランキングとしても500位前後を推移しており、決して上位層とは言えないタイトルではあった。とはいえ同軸として語られるソーシャルゲーム「リバース:1999」や「ラストオリジン」がサービス終了となっていない辺り、セールスランキングだけが開発停止の事情として見るにはいささか疑問が残る所ではある。

ソーシャルゲームの継続可能性

 ソーシャルゲームの開発は小規模な開発スタジオが行っている事も多々あり、そういった企業は入れ子式に大手企業の子会社として存在している。そうなると出資元の動向がそのまま子会社に降りかかりかねない状況となるため、出来る限り独自でIPを確保し独立採算制を打ち出せるだけの企業体力を持たねばならない。そういった意味では企業の経営悪化にせよ、セールスランキングの低調にせよ、今回の開発終了は非常に運の悪い話として語られるべき内容だ。

 そして何よりも残念なのは、ローカライズの質こそ場合によっては微妙であるが、ゲームとしての質は低くなく、サービス面においても現状不満要素が出ていなかったという点にある。ゲームそのものの瑕疵ではなく、原因は外側で起きてしまった出来事にある。もしも出資元の財政再建という話が開発停止の要因であるならば、今回の件についての責任の所在をどこに置くべきかは非常に曖昧な所だ。

 今回の件を受けて、2026年6月24日のイベント終了以降の取り扱いについても告知が改めて行われるとの事である。アプリによってはオフライン版への移行という事で配信期間を限定してのダウンロードを行ったり、あるいは買い切りで完全オフライン版を購入するといった措置を行うメーカーもある。ただしこういった事例は本当にごく少数であり、稀なものである。

 もらい事故のように開発終了が決まってしまった新月同行。同作の今後の行方は中国における、ソーシャルゲームのサービス終了を見据えた対応の方向性を決定づける可能性があると言えるだろう。

1987年東京生まれ。ゲームニュース編集者。10年以上の国内ニュース記者および編集職を経て、現在フリーエディターとして活動中。国内・海外の業界ニュースやトレンドを中心に日本の読者にいち早く情報をお届け。