2025年11月13日(パリ時間)にUbisoftは突如「上半期の決算発表を延期する」と告知。現在公式ページ内には説明を行うPDFが掲載されており、併せてヨーロッパの主要証券取引所を運営するユーロネクストに対し、自社株式と債券の取引を停止するよう要請を行っている事を報告している。この取引停止は翌14日から継続している状況であるが、肝心の決算発表についての再告知は現状なされていない。そのためいつその発表が行われるのかは現状未定となっている。
ユーザーからはこのUbisoftの対応について失望の声が多く上がっており、その先行きを不安視する声が後を絶たない。株式においては前年比49%、5年間では95%も価格を落としているとの報道もなされている。なぜこの様な状況に追い込まれているのかを簡単に攫ってみる事にしよう。
Ubisoftのラインナップについて
同社は1986年にフランスのパリにおいて創業されたゲーム会社である。日本においてはFPSタイトルとして話題になっている「レインボーシックス」シリーズや、ミリタリー系の作品である「ゴーストリコン」シリーズ、ステルスアクションゲームの「スプリンターセル」シリーズやオープンワールドレースゲーム「The Crew」シリーズ、そして潜入と暗殺をメインとする「アサシンクリード」シリーズなど数多くのタイトルで有名となっている。一躍その認知度を上げたのは、アサシンクリードシリーズ一作目の「アサシンクリード」であり、群衆に紛れてターゲットに接近を試みたり、あるいは現実世界と交錯するSF要素が取り上げられたりとエポックメイキングな作品であった。
また手広く多数のタイトルを手掛けるだけあって、世界各地に開発スタジオを置いている事も同社の特徴の一つである。日本でもUbisoft Osaka株式会社が大阪に設置されており、その前身となるのは名古屋にあったUbisoft Nagoya株式会社である。かつては大阪との二拠点体制で制作していたようだが、現在は大阪へと一本化が図られている。
リアリティ重視かつビジュアルにも妥協しないソフトづくりが評価されている同社であるが、それでもここ最近は苦境が目立っている。その傾向が顕著に見られたタイトルが「エックスディファイアント(XDifiant)」である。
活かしきれない自社のIPと続編のクオリティ
エックスディファイアントはUbisoftの手掛けるファーストパーソン・シューティングゲームであり、基本プレイは無料。開発はスタジオの一つであるUbisoft San Franciscoが主導となって行われた。同作はUbisoftの手掛けるゲームシリーズのキャラクターが所属する勢力が一堂に会するものであり、自社のIPをフル活用してリリースされた鳴り物入りの作品であった。
登場するタイトルは「ディビジョン」のクリーナーズ、「ゴーストリコン ファントムズ」のファントムズ、「ファークライ6」のリベルタード、「スプリンターセル」のエシュロン、「ウォッチドッグス2」のデッドセック、「レインボーシックス シージ」からGSKと、タイトルをプレイしたり聞きかじった事があるならば聞き覚えのある勢力が多数登場している。これだけのメンツを揃えれば、セールスは確実なものとなるはずであった。
そう、このゲームは2024年にサービスインしたもののセールスが振るわず、結局2025年6月にサービスを終了しているのである。基本プレイ無料という間口の広さこそあるが、いわゆるキャラカスタマイズ可能なスキル制シューティングであり、ルール自体も先行リリースされている作品とそう大差のないものであった。加えて登場するキャラクター達はあくまでその勢力所属というだけであり、厳密には原作のキャラクター達そのものではない。また勢力ごとのスキル差はあるものの、同勢力におけるキャラクター同士のスキル差は無い。街中におけるハッキング要素の強いウォッチドッグスシリーズのキャラクターの持ち味が「スパイダーボットを召喚する」「敵へのスキル使用不可デバフ」などそこまで派手さに欠けるものである点も、原作の良さを落とし込むには足りなかったのだろう。ヒーローシューターとしても再現系シューターとしても魅力が不足してしまっている状況であった。
また先述したアサシンクリードシリーズの最新作「アサシンクリード シャドウズ」は、2020年7月に発売された「Ghost of Tsushima」と度々比較され、その日本における文化考証の稚拙さが数多く指摘された。ゲームそのものはユーザーからすればいつものアサシンクリードシリーズという良くも悪くもない評価であるものの、日本に根ざした諸要素やNPCの挙動などが大きく批判される結果となった。先述したGhost of Tsushimaについては史実通りではない対馬の様子が描かれているものの、こだわり抜いた日本文化への分析と実装、ストーリーラインの素晴らしさなどが評価され、続編のGhost of Yōteiについてもそのビジュアルと文化的「尊重」が失われていないことから、メガヒットを飛ばしている。
こういった状況から見るに、過去作や作り込みを重視するユーザーの期待するIP展開と、いわゆる「売れる物」に追従し続けるUbisoftが期待するIP展開に大きなズレが生じているといっても過言ではない。
スタジオの閉鎖とTencentへの接近
こうして新作のシャドウズがリリースされた後に発表されたのが、ロサンゼルスと大阪の開発スタジオの閉鎖である。今回シャドウズでは大阪のスタジオ所属と思われる人名が確認できるが、スタッフロール中わずか三人であった。大作に携わる人数としてはあまりにも少なく、遅かれ早かれ日本における同社の開発体制はもはやあってないような物だったのだろう。またオーストラリアのスタジオについては閉鎖ではないものの活動停止となっており、開発に大きな遅れが見込まれる状態だ。
そんな中で同社は中国の大手企業Tencentの出資を受けており、Tencent側は11億6000万ユーロ(約2000億円)を出資し、約25%の株式を取得する予定。また合同スタジオである「Vandage Studios」も設立されており、アサシンクリードシリーズやファークライシリーズ、レインボーシックスシリーズに焦点を当てた新子会社であるとの事だ。つまるところ、それ以外のIPについてはUbisoftが手掛ける事になるだろうが、それでも以前の様な全社的な対応は難しくなると見られている。この動きも相まって、決算の発表を土壇場で延期することとなったのだろう。
かつてはUbisoftといえば意欲的な作品を多く作り出していた企業であるが、現在青息吐息となっているところを見ると、同社のゲーム製作に対する姿勢が変わってしまったものだと心配になる所である。
