ARC Raiders、順調な船出もPvPvEスタイルが懸念材料となるか

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 オンラインゲームの制作及び運用を行う株式会社ネクソン(本社:東京都港区、代表取締役社長:李 政憲/イ・ジョンホン、東証:3659、以下 ネクソン)は、連結子会社であるEmbark Studios AB(所在地:スウェーデン王国ストックホルム市、CEO:Patrick Söderlund/パトリック・ソダーランド、以下 Embark Studios)が手掛ける『ARC Raiders®』が、高いレビュースコア並びにプレイヤー指標を獲得していることを11月4日に発表した。本作は10月30日のリリース直後から、Steamの全世界売上ランキングで首位を維持するとともに、同プラットフォームのみで最大同時接続者35万4,836人を達成したとの事である。Steamでは「非常に好評」の評価を獲得したほか、コンソール版でも多くのユーザーを獲得するなど、好調な滑り出しだという。

 ただし現在Steamのレビューは日本語では「やや好評」という段階となっており、少なくともプレスリリース発表時点よりは日本のユーザーからの評価が下がってしまっている状況だ。本作を評価する声が多い中、厳しい声も見られる現状を分析していく。

ARC Raidersとは

 『ARC Raiders®』はPvPvEサンドボックスとして銘打たれているタイトルだ。プレイヤーはならず者のガンマン「レイダー」として、崩壊した世界を舞台に危険な「アーク」マシン、敵対する他の「レイダー」、そして常に潜む奇襲の脅威の中を突破する事になる。『緊張感あふれる戦闘と、謎とチャンスに満ちた広大な世界を探索しながら、プレイヤーは地上で資源を集め、地下居住区「スペランザ」に自らの拠点を築き上げていきます。』とは公式の弁である。

 この説明の通り本作は広大なフィールドに多くのプレイヤーが放り出され、そこから無事に脱出する事を念頭に置いたいわゆる「ルートシューター」に分類されるゲームだ。ただしプレイヤーと敵性NPCであるアークのパワーバランスは、一般的なPvPvEと比べてだいぶ違う様相となっている。大体のルートシューターでは、PvPvE要素の主軸としてPvPがあり、PvE要素は比較的添え物の様な難易度である事が多い。それは「プレイヤー同士がお互いの所持品を奪い合うシチュエーションとなるまでの緊張感」を重視しているからだ。結果としてプレイヤー側の武装は使いやすい物が揃う事が多い。

 しかし本作は敵の「アーク」がともかく強敵となっている。群体で襲ってくるものや高耐久力のものなど、PvE系統のタイトルに迫るほどの厄介さを誇る。加えてプレイヤー側の武装もそこまで質の良いものではなく、精度や威力に難のある銃ばかりだ。結果としてプレイヤー同士の遭遇戦では爆発物などの一部の武装を除けば、即死の可能性がそう高くない調整となっている。また本作はあらゆる行動で「音」が発生する。敵であるアークは音に対して非常に敏感であり、音の発生源、すなわちプレイヤーの元に集合する上に、他のアークを呼び寄せるという性質も持っている。つまるところ、アークを見かけたら他のプレイヤーと争い合うどころか協力して倒さざるを得ない状況となるのである。

 もちろん戦闘に慣れたプレイヤーであれば、アーク相手に勝利を収める事もそこまで難しくないだろう。しかし大体の場合はプレイヤー同士の戦闘より、アーク相手に分の悪い戦いを繰り広げ、なんとかねじ伏せて拠点に戻るというパワーバランスである事から、現状では「敵対しているプレイヤーであっても、アークを相手にする以外では交戦する事が稀」だという。

PvPvEである必要性の有無

 さてここまで見て疑問に思う読者もいるかもしれない。これならばPvPvEタイトルである必要はないのではないか、という点だ。現状アークとのパワーバランスはプレイヤー側に対してかなり不利をつけており、プレイヤー側の銃の精度などはお世辞にも良くない。その上プレイヤーが行動したり、相争う事そのものがアーク襲撃のリスクを抱えている。そうなると、結果的にプレイヤー同士の交戦要素自体が重要視されなくなっていく。Steamのレビューで低評価が増え続けている一端は、プレイヤー同士が積極的に交戦するPvPを期待して入ってきたユーザーが期待外れと思ってしまった状況が担ってしまっているといってもいい。

 また本作は脱出のための装置を作動させると非常に大きな音が発生する。他のプレイヤーが向かってくる上にアークも殺到する事になるのだが、脱出しようとした際に他のプレイヤーから奇襲される「キル待ち」も横行している。コレ自体はシステム上問題の無い行為であるが、本作の脱出システムがかなり難のある仕様である以上、そこで倒されてしまう事は非常に強いストレスを与えるのだろう。この点についてもマイナス評価がついている。

 現状、Steam上の評価は50,000件近いレビューのうち5,000件ほどが不評、残りが好評となっているので、全レビューで見れば90%の「非常に好評」という評価だ。しかし現状のPvPvEとしてのバランスは他作品に比べだいぶ特異である。この点をどれだけ活かすことが出来るのか、今後の同タイトルの舵取りの慎重さに注目が集まっている状況だ。

1995年名古屋生まれ。Eスポーツニュースエディター。Eスポーツ専門雑誌の記者として5年勤務後、独立。国内外のEスポーツ業界の最新ニュースや特集記事をお届け。