お硬い組織がゲーム作品とコラボレーションするというと、大体はそのキャラクター性を理解しないままにアイコンとして扱う事態が往々にして存在する。それは双方のコラボレーションによって、キャラクターの個性や背景となるゲームの事情を読み込めておらず、結果としてちぐはぐな出来となってしまうためである。昨今の言い回しで言えば、無理解ゆえに「キャラ愛」が足りず、歪な使わせ方をしてしまうようなものだ。しかし今回のコラボレーションは一味違う出来となっている。
原典に忠実なコラボ動画
10月19日、大阪府警察は対戦型格闘ゲーム『ストリートファイター6』とコラボした動画「ストリートファイター6のキャラクターが投資詐欺を注意喚起!」をYouTubeで公開した。もう一度繰り返す事になるが、大阪府警察がストリートファイター6とのコラボレーションで、かつ犯罪に対する注意喚起を行う内容の動画を作ったのである。余り双方に馴染みの無い組み合わせであるため、その内容もいかがなものかと思われがちだが、その懸念はいい意味で裏切られてしまった。
動画の冒頭から「悪が蔓延るこの世界」と大仰なナレーションが流れる中、映し出されるスマートフォンの画面。見るとLINEなどのトークアプリの画面であり、「絶対儲かる!ケン・マスターズの投資教室」なるバナーの画像をユーザーが貼り付けている。それに呼応するかのように参加者も「200万円儲かりました!」などの謳い文句をメッセージで流していく。この会話のグループ参加者である青年も「みんな儲かってるみたいだ。私もやってみよう」と、ケン先生の投資する株を買いたいと訴え出る。勧められるままに専用口座開設とアプリのダウンロードを済ませ、数日後に利益を出金しようと試みる。
だがここで「1000万円追加で入金してください」という指示が出たので、青年はケンにことのあらましを直接聞いてみることに。案の定その話自体が偽物であり「そんなこと知らないぞ。犯人をとっちめてやる」と怒り心頭。騙されたと崩れ落ちる青年の無念を晴らすべく、詐欺師に怒りの「神龍裂破」をブチかましてKOさせるという流れとなっている。
ストリートファイターシリーズにおいて、同シリーズのⅤまではケンがマスターズ財団の御曹司かつ同財団を引き継いだ事もあって「経済的に恵まれているが、格闘家としてしがらみを持っている」という人物として描かれていた。しかし6に移るにあたり、ケンがとある地域を巡る事件からその背後に蠢く企みに巻き込まれ、財団の総帥(Vice President)の座を捨てて隠遁し、路上作業員に扮しながら復讐の機会を伺っているという立場にまで追い込まれる。しかしそれでも彼自信が立ち上げた「ケン・マスターズ流通信空手」は未だに運営を続けていることから、格闘家を志す人に対する姿勢は未だに衰えていない。
さてこの前置きを経た上で映像に戻ると、詐欺師集団たちの立ち回り方もある程度上手いことが見て取れる。先述した通信空手を長らく運営している実績もあってか、マスターズ財団の御曹司である彼が投資教室を開いていてもおかしくはない、という「説得力のある証明」で攻めてくる。無名なYoutuberならいざ知らず、世界的に名が売れている有名人であれば心がなびいてしまいかねないものだ。また、少人数のグループでカモを釣り上げるやり口は、同じ意見を言う集団に属している人物は、違う意見でも同じ意見へと考えがシフトしてしまう「ハルシネーション効果」を狙ったものだろう。いずれにせよ、昔も今もケンはそういった姑息な事をしない人物なのである。最も、彼を陥れた黒幕もここまで狡っ辛い手は使わないだろうが。
実は関係が深い大阪府警察と株式会社カプコン
意外な取り合わせに見える両者であるが、そのコラボレーションの歴史はかなりの長期間に渡る。公式サイトに記載されている内容では、2013年5月の「大阪城防犯キャンペーン」を開催した際に、ゲーム「戦国BASARA」とのコラボレーションを行った事が最初と考えられている。サイバー犯罪捜査官の募集広報についても2019年8月に行っており、こちらがストリートファイターシリーズとの最初期のコラボと考えて良いだろう。そこから大阪府警察は結構な頻度でコラボ先をストリートファイターシリーズに絞っている。警察内部の担当者としても使い勝手の良い宣材と見ているのは間違いないだろう。


そしてこうしたコラボレーションを行う事は、若年層を中心に好感度を高める効果も見込まれる。年長者が大半を占める組織というと、大体はゲームについて印象が悪いというイメージがついて回る。そういった「とっつきにくさ」を払拭する意味で、ゲームに寄っていく組織というのは大いに求められている状態だ。まして、ソーシャルゲームを含めゲームというものがより社会的に認知されていっているのだから、この手のコンテンツに明るくなるのは必須条件とも言えるだろう。
今回も高いクオリティでコラボレーションを行った大阪府警察と株式会社カプコン。次はどんなコンボで市民の安全を買って出るのか、次のエントリーも楽しめそうである。
